第8話 フロリダ武者修行

しばらくして、妻のみほと愛犬イーグルが
日本から来ることになった。
犬を一緒に連れてくるということで、僕にも重大な任務が任された。
どうやら、成田からワシントンDCに飛行機が到着して、
そのあとのワシントンからオーランドまでの乗り継ぎ便に
犬は乗せられない、ということで、
私にワシントンまで車で迎えに来るように妻から命令が下ったのだ。

頼むのは簡単だが、オーランドからワシントンDCまでって
結構な距離なんだけど・・・わかってんのかな?
結局、丸2.5日間オーランドから車で飛ばして、
家族が到着するワシントンまで長い道のりをひとり運転。
あー、本当に遠い!それもひとりで運転はキツイぞー。

無事、みほとイーグルがワシントンに到着。
さすがにイーグルは十数時間を真っ暗な飛行機の貨物室で過ごし
恐怖と不明な揺れに疲れ果てていたのか、出てきた時はぐったり。
みほの顔を見て初めてキューン、キューンと情けない声で鳴いた。

そんなふたりをピックアップして、早速またオーランドへ向けて
長ーい道のりを帰ることになったが、今度は一人じゃない。
行きに比べたら何倍も楽しい運転の時間になった。
よーし、改めてフロリダでやりきるぞーっと力が湧いてきた気がした。

<武者修行とミニツアー>

有難いボスのサポートに最大の感謝をしながら
再び僕の感覚では故郷のように感じるアメリカでの生活が始まった。

24時間、365日、自分で自分のスケジュール管理をするのは
プロゴルファーの僕としては慣れていたはずではあるが、
試合に出ない日々の自己管理は、実は結構辛いものである。

自分に厳しくしていかないと、楽な方に流されるし
サボろうと思えばいとも簡単にサボれてしまう。
日々の管理とモチベーションをどう維持するのかも
今回の僕には大きな課題となった。

当面の課題はスイングの見直しとスイングづくり。
アパートの目の前にあるGrand Cypress Resortというゴルフ場の
練習施設メンバーとなり、そこを練習の拠点とすることにした。
いつでもすぐに練習ができる完璧な環境。
ボールも打ち放題、練習のためのホールが3ホールあって
ラウンドも非常にメンテナンスが行き届いた素晴らしいコースでプレーできる。
とにかく、ひたすら毎日練習に明け暮れた日々となった。
まだまだ1日中練習しても壊れない体力もあった。

オーランドには1-2日間のミニツアーが結構あちこちで開催されていて、
ちょっとした腕試しや、日々の練習の成果を試すチャンスがたくさんある。
プロゴルファーは、やはり試合に出て勝ち負けの中にいることが
何よりもパワーの源。
日々のルーティーンにはミニツアーの試合をできるだけ盛り込んだ。

自分のゴルフに自信がついてくると、規模の大きなミニツアーにでたくなり
オーランドを離れて、ウエストパームビーチ(フロリダ南部)に引っ越しして
ジャック・ニクラウスの会社が運営していた
Golden Bear Tour(現在はもう存在しない)に参戦。
3-4日間の試合が年間約18試合ほど開催され、エントリーフィーが1試合1000ドル。
ミニツアーというのは基本出場選手らが支払うエントリーフィーを
上位数名がとりあう、ある意味サバイバル感いっぱいの試合なのだ。
現金1000ドルを払って試合に臨むというのは、結構ドキドキしたものである。
予選落ちしたら大赤字。とにかく上位に入らないと黒字をキープできないから
毎試合必死!この緊張感がさらにモチベーションと集中力を上げてくれた。

ノースキャロライナにレベルの高いミニツアーがあると聞くと
ノースキャロライナに引っ越してまた参戦したりもした。

この数年間は、ゴルフのことを自分で考えて考えて試行錯誤を
ひたすら繰り返していた。
はっきり言ってその試行錯誤が苦しくも感じたが、
苦しんだ分だけ自分のスイング理論の基礎もできたことは
事実だし私の財産となった。

だが、ゴルフに打ち込む膨大な時間とは裏腹に
自分の求めるゴルフの方向性が見えてこず、
アドバイスを求めて何人ものインストラクターたちに
教えを乞うこともしたが、なかなか心に入ってくる
アドバイスはなかった。

ミニツアーではそこそこ稼ぐことはできたが、
こんな程度じゃレギュラーツアーでは戦えないことも
わかっていたので、やはり焦る気持ちはあった。

PGA TOURのQ-School(予選会)にもこの間3回挑戦した。
1次予選は突破するも2次予選の壁はかなり高かった。
もちろん世界最難関のツアーでハードルは非常に高いのだが
毎年選手たちが上手くなっていると感じたし、
自分は毎年ボールが飛ばなくなっているもの感じた。
自分の「スコアーを作る」という部分で頭打ち状態も感じた。
体力的にはトレーニングをしても現状維持するのが精いっぱいなのを
実感していた。

そして、2006年の日本のツアーの予選会を失敗して
精神的にかなりダウンしてしまった。
ゴルフはもちろん良くはなっていたのだが
トーナメントプロとして稼ぐにはちょっと厳しいと
感じてしまったのだ。
俗にいう燃え尽き症候群なのだろうか。

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